****************************************************************************************************************

第 84 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 6月29日(木) 午前 9:30 〜 12:00
場 所:地球環境研究科管理棟 2F 講堂

発表者:林 寛生 (大循環力学講座 D3)
題 目:ロケット観測による水平風データに見られる慣性不安定

発表者:青木 一真 (極域大気海洋学講座 D3)
題 目:中高緯度で観測されたエアロゾルと雲の光学的特性

****************************************************************************************************************

ロケット観測による水平風データに見られる慣性不安定 (林 寛生) 発表要旨:

 回転流体中における不安定現象のひとつに, 慣性不安定がある. これは, 動経方 
 向(回転軸に向かう, もしくは回転軸から離れる方向)の運動に対する不安定で,  
 流体の角運動量の分布が回転軸に近づくにつれて大きくなっているような場合に 
 実現する. 地球大気を考えると, 赤道側よりも極側で絶対角運動量が大きくなっ 
 ている場合が慣性不安定に相当し, 冬半球低緯度の成層圏界面付近の高度(約  
 50km)で不安定状態になる可能性があることが知られている. 
  
 現実大気中の慣性不安定については, これまで衛星観測データを用いた研究がい 
 くつか行われてきた. Hitchman et al. (1987), Hayashi et al. (1998), 
 Smith and Riese (1999) による研究では, 赤道成層圏界面付近で, 温度アノマ 
 リ(帯状平均からのズレ)の正・負の極大が, 鉛直方向に約 10km のスケールで交 
 互に重なった構造を示す場合があることがわかった. この温度擾乱("パンケーキ 
 構造"と呼ばれる)は, Dunkerton (1981)が理論的に予測した慣性不安定擾乱の構 
 造とよく似ていること, また, 背景場の様子などから慣性不安定によって作られ 
 た構造であると考えられている. 
  
 理論的には, 不安定によって, 帯状風や南北風にも温度場と同様の鉛直スケール 
 を持った擾乱が現れることが予想されるが, これまで, 観測データを用いて慣性 
 不安定に伴う風速擾乱を研究した例は報告されていない. そこで, 1970年代後半 
 から 1980年代にかけて観測されたロケットゾンデによる風速データを用い, 慣 
 性不安定に起因する風速擾乱について, 現在研究を進めている.  
  
 今回は Kwajalein 島(9N, 168E)における '78-'79 冬季の風速データの解析結果 
 を中心に発表する. まず, 帯状風擾乱と南北風擾乱の鉛直プロファイルは逆位相 
 の関係であることが理論から予想されるため, 両者の相関係数を計算した. この 
 うち, 特に相関の高い(係数が -1に近い) 2つのケースに関して, 同時期の衛星 
 観測データから背景場の様子を調べたところ, 赤道上にパンケーキ構造が存在し 
 ているなど, 慣性不安定がつくり出した風速擾乱である可能性が高いことがわかっ 
 た. 
  

中高緯度で観測されたエアロゾルと雲の光学的特性 (青木 一真) 発表要旨:

  二酸化炭素のような温室効果気体の増加による気温上昇は、温暖化予測にと 
 って重要であることはよく知られている。しかし、温室効果気体だけでは、そ 
 の予測と現実との説明がつかないことが、IPCC95などによって報告されている。 
 最近の研究から、温暖化予測におけるエアロゾルの放射効果の重要性がわかっ 
 てきており、その放射効果の定量的なデータの蓄積とそのメカニズムの解明が 
 急がれている。 
  このような放射効果を評価する場合、太陽放射によるエアロゾルや雲の散乱 
 ・吸収過程の特徴が、時間・空間変動が大きいこと、粒子の形状や物質が多種 
 多様であり物理的化学的性質が異なって存在するために、未だに厳密な評価を 
 することが難しいことがあげられる。近年のリモートセンシング(Nakajima 
 et al., 1999)やモデル(Takemura et al., 2000)の発達により、エアロゾ 
 ルのグローバル分布が少しずつ明らかになってきたことは確かであるが、この 
 ような特徴を持ち合わせているため、地上からの観測も不可欠である。そこで、 
 温暖化予測に寄与するためには、まず、地上観測からエアロゾルや雲の光学的 
 特性の実態把握を行い、放射効果を定量的に見積もる(e.g. Takayabuet al., 
 1999)必要が出てくる。今まで、1994年より新潟、つくば、沖縄、長崎、札幌、 
 海洋上など、多種多様な場所で観測を行ってきました。 
  今回は、上記のような中高緯度の観測から得られたエアロゾルと雲の光学的 
 特性について、地域、季節変動や気象データとの関係について示し、どのよう 
 な特徴があり、何が重要となってくるのかについてお話しします。 
  例として、札幌では、1997年7月よりSky radiometerを使った太陽の直達光 
 と周辺光の角度分布の放射輝度の連続測定をおこなってきている。これらから 
 エアロゾルの光学的特性である光学的厚さ、体積粒径分布、一次散乱アルベド、 
 散乱位相関数や水蒸気分布などの時空間変動を得ることができた。約3年間の 
 データの蓄積により、光学的厚さの季節変化は、春に最大で、秋に最小である 
 こと、一次散乱アルベドの結果から他の季節に比べて、夏に散乱の寄与が大き 
 いことがわかった。また、Mie Lidarを使った放射強度と偏光解消度の測定は、 
 昨年より断続的に行っており、Sky radiometerでは、得られない鉛直分布の微 
 細構造を示すことが出来てきている。発表では、札幌以外のデータも示す。 
  

-----
連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋環境科学専攻気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359