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第 86 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 10月 12日(木) 午前 9:30 − 12:00
場 所:低温科学研究所 2階講義室

発表者:荒井 美紀 (気候モデリング講座 D3)
題 目:ブロッキング現象の維持における総観規模擾乱の役割

発表者:藤吉 康志 (極域大気海洋学講座 教授)
題 目:降雨・降雪の集中に関わる地形効果再考

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ブロッキング現象の維持における総観規模擾乱の役割 (荒井 美紀) 発表要旨 :

  
 ブロッキング現象とは、対流圏中高緯度において偏西風ジェットが分流し、典 
 型的にはその直下流域で北に高気圧、南に低気圧性循環を持つ南北双極子型構 
 造が多く観測されている。この現象は、摩擦などの消散過程に抗して一週間以 
 上の持続性があり、何らかの維持機構が働いているものと考えられている。 
  
 ブロッキング時には、総観規模擾乱は分流したジェットによって進行を妨げら 
 れている。Shutts(1983)は分流を持つ基本場のまわりで線形化した方程式から、 
 このような擾乱が以下の三段階を踏んで、分流を持つ=ブロッキング状態にあ 
 る基本場を維持することを説明した。 
  
 1. 擾乱が分流したジェットに当り、南北に伸び東西に縮むという変形を受け 
 る。 
 2. この変形によりエンストロフィーが分流前面で局所的に増大する。エンス 
 トロフィー方程式のバランスより、渦度フラックスは分流の手前で北で発散、 
 南で収束するという双極子構造を持つ。 
 3. 渦度フラックスのこのような発散場により誘起される流れの場は、分流の 
 後方で北に高気圧、南に低気圧を持つ。すなわち、ブロッキングの典型的な気 
 圧場を持ち、ジェットの分流を支持する。 
  
 本研究では、こうした流れの形態を持つ等価順圧渦度方程式の非粘性の解析的 
 な定常解であるモドン解をブロッキングのモデルとして用い、上記のShuttsの 
 実験と比較し、総観規模擾乱のブロッキングの維持機構について検討を行った。 
 上の段階の2.まではほぼ同じ結果が得られたが、誘起される流れの場はモドン 
 解と良く似た双極子構造を持っていたものの、位相がやや西にずれていた。 
  
 さらに、上流から与える擾乱を以下の点で様々に変え、それによって誘起され 
 る流れの場を調べた。 
 ・擾乱の縦横比 
 擾乱の縦横比が1.3前後(やや横長)で二次流れの様子が大きく変わり、四重極 
 構造となり、モドン解とは大きく離れる。実際の観測例ではブロッキング高気 
 圧にぶつかってくる渦は縦長であるので、結果的にうまく強制することができ 
 ているのであろう。 
 ・強制の位置 
 上流から流される擾乱の位置が、モドン半径(ブロッキング高気圧の大きさ)の 
 20%程度南または北にずれると、本来モドン解が持つ反対称性が二次流れから 
 失われ、モドン解から遠ざかる。すなわち、渦がぶつかって引き延ばされたと 
 いってブロッキングを維持するとは限らず、中心付近に当たることが必要であ 
 る。 
  
 また、Shuttsの仮説の根拠となるエンストロフィー方程式を用いた説明では、 
 いくつかの計算結果において、うまく適用出来ない場合があることが確認され 
 た。そこで、擾乱の渦度フラックスの発散収束とE-vectorの発散収束との関係 
 を用いて、擾乱の変形の効果を考察した。 
  

降雨・降雪の集中に関わる地形効果再考 (藤吉 康志) 発表要旨 :

  
  今回は、豪雨・豪雪地帯で我々がこれまで行ってきた観測を基に、観測を実 
 施する前と後とでどのように地形効果に対する概念が変わったかについて報告 
 する。  
  我が国のように複雑な地形を持つ地域では、地形効果によって降水・降雪の 
 集中が起こることは衆知の事実であるが、最近、TRMM/PRを用いて調べられて 
 いる降雨の日変化を見ても、山岳や島、さらに谷や湖の影響などがよく出てお 
 り、やはり地形が降雨分布に及ぼす効果は大きい。また、サブグリッドスケー 
 ルの地形効果をどのように組み込むかという問題は、領域モデルやGCMはもち 
 ろんのこと、メソスケールモデルにおいても大変重要な研究課題である。  
  単純な地形や山岳周辺の気流は主にフルード数と山の高さによって決まり、 
 大気条件を与えることができれば数値計算によって再現可能である(例えば 
 Saito,1992)。従って、孫野(1971)が指摘した降雪の集中に関わる地 
 形効果、すなわち、山脈のバリアー効果、山頂効果、翼端効果、収束効果、通 
 路効果、淀み効果、吹き溜まり効果などのいくつかはモデルによるシミュレー 
 ションが可能である。ただし、ここで注意しなければならないことは、観測か 
 らある程度プロセスが分かってからモデルによるシミュレーションを実行しな 
 いと、実際に生起している現象とは全く別の解釈を行う可能性があることであ 
 る。しかし、通常の気象データでは降雨分布は得られるが、周辺(特に海上と 
 上空)の気流分布が分からない。そこで我々は、ドップラーレーダーを用いて 
 豪雨・豪雪地帯で観測を行ってきた。  
  紀伊半島の尾鷲では、山の風上でエコーが停滞、あるいは再発達することが 
 知られている。観測前までは、大台ケ原などの紀伊山地による2次元的なアッ 
 プストリームブロッキングかと考えていたが、観測後は、志摩半島も含む3次 
 元的な気流を考慮しなければ説明できない現象であることが分かった。また、 
 石狩湾での観測前は、積丹半島や高島岬の風下に発生するエコーは翼端効果や 
 ウェーク効果によるものかと思っていたが、谷筋を通る流れも重要であった。 
 長崎の諫早バンドは、収束効果と通路効果が重なったものと考えたが、意外な 
 メカニズムが利いていた(間辺修士論文、1998)。 
  

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359