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第 89 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:2000年 11月 16日(木) 午前 9:30 − 12:00
場 所:低温科学研究所 新棟 3階講堂

発表者:遠藤 辰雄 (極域大気海洋学講座 助教授)
題 目:降雪粒子に含まれる硝酸塩に関連する幾つかの研究の紹介

発表者:田中 潔 (気候モデリング講座 PD)
題 目:斜面上での傾圧不安定による高密度水の輸送過程

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降雪粒子に含まれる硝酸塩に関連する幾つかの研究の紹介 (遠藤 辰雄) 発表要旨 :

  
   この研究は降雪粒子を地上で採取して,それを融解し化学分析をしたとこ 
 ろ、霰(あられ)や雲粒付きの雪結晶には硫酸塩が卓越して含まれていること 
 が、またこれと対称的に、雲粒の付かない外見上綺麗な単結晶の雪結晶やそれ 
 らの集合した雪片(せっぺん)には硝酸塩が相対的に高濃度で含まれることが 
 認められたことに端を発している。前者の硫酸塩は長距離輸送物質と考えられ 
 ているので、この降水への選択的な取りこみは広く理解されているが、この後 
 者の結果は新しい知見として、すでに Atmospheric Environment に報告して 
 ある。硝酸塩は元来近距離発生源から来るものと考えられているので、そこで 
 は雲底下の大気境界層内の汚染物質を Scavenging したものと考察された。し 
 かし、下層大気の汚染されていない遠隔地でもこの硝酸塩が降雪粒子から検出 
 されることから、硝酸塩も遠距離輸送される可能性が考慮されるに至った。こ 
 の雪結晶に硝酸塩が取り込まれると言う結果と符合する室内実験がMainz大学 
 のDiehl et al., 1995によってなされているので、その結果を紹介する。また、 
 最近、氷床コアの化学分析により、極域における接地大気の化学成分観測や積 
 雪試料の化学分析をした結果からも硝酸塩が有意な量で検出され、同様な議論 
 が展開されている。  
  

斜面上での傾圧不安定による高密度水の輸送過程 (田中 潔) 発表要旨 :

  
 極海域における底・深層水形成の重要な要因の一つである海底斜面に沿 
 う密度流の傾圧不安定とそれに伴う海水の輸送過程を調べるために、非静水圧三 
 次元モデルを用いて数値実験を行った。本研究では、特にこれらの過程に対する 
 海底斜面の効果に焦点を当てた。現実海洋における大陸棚及び大陸棚斜面の傾斜 
 を考慮して、実験は海底斜面の傾斜 S について 0 <(=) S <(=) 0.04 の範囲 
 に渡って行われた。海底斜面は傾圧不安定に対して二つの相反する効果を持つ。 
 一つは不安定を弱める効果(安定化)であり、これは一般に良く知られている地 
 形性ベータ効果と水深の増加に起因する。もう一つは不安定を強める効果であり、 
 これは等密度面の傾きが斜面上で急になり有効位置エネルギーが増大することに 
 起因する。実験の初期(developing stage)においては後者の不安定化が卓越す 
 るため、傾圧不安定波の発達は斜面傾斜 S の増加に伴って早くなる。また、レ 
 イノルズストレスによる非線形効果も二次的に流れの安定性に影響を及ぼし、結 
 果として不安定波の成長率は S におおよそ比例する。不安定波が成長して有限 
 振幅となった後は(mature stage)、海底斜面の持つもう一つの効果すなわち安 
 定化作用が、特に急斜面のケースの下部斜面域において卓越するようになる。そ 
 のため、急斜面のケースにおいては活発な渦活動が上部斜面域に偏在するが、緩 
 斜面のケースにおいては斜面全域に渡って見られる。このような渦活動の斜面傾 
 斜に対する依存性は高密度水の沈降過程に重大な影響を及ぼす。緩斜面のケース 
 では、全体として不安定化が安定化に勝るために高密度水の沖側(斜面下方)へ 
 の輸送効率は S とともに増加する。これに対して、急斜面のケースでは、特に 
 下部斜面域での安定化が不安定化に勝るために高密度水の輸送効率は S ととも 
 に減少する。その結果、最も効果的な輸送は S=0.005 のケースにおいて生じる。 
 不安定渦による高密度水の輸送は急傾斜のケースの下部斜面域では著しく減少し、 
 その大きさはエクマン輸送とほぼ同じなる。しかしながら、エクマン輸送が薄い 
 境界層内(厚さ 23m )でしか生じないのに対して、不安定渦による輸送はその 
  4 - 8 倍の厚さ( 100m - 200m )の層内で生じるため、全体(鉛直積 
 分量)としては不安定渦による輸送の方がエクマン輸送に比較して効果的である。 
   

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連絡先

石渡 正樹 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:momoko@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2359