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第 105 回 大気海洋圏物理系セミナー のおしらせ

日 時:11月 29日(木) 午前 9:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:向川 均 (気候モデリング講座 助教授)
題 目:成層圏突然昇温現象の予測可能性

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成層圏突然昇温現象の予測可能性 (向川 均) 発表要旨 :

  
 冬の成層圏循環において最も顕著な現象である突然昇温現象は,対流圏より鉛 
 直伝播する大振幅のプラネタリー波と成層圏における帯状平均風との相互作用 
 という枠組みで力学的に理解しうることは,Matsuno(1971)によりすでに示さ 
 れている.しかしながら,突然昇温現象の発生の前にしばしば観測される,対 
 流圏におけるプラネタリー波の増幅メカニズムをうまく説明する理論は提唱さ 
 れていない.また,実際に発生した昇温現象を,どのくらい前から数値予報モ 
 デルで予測しうるのかという予測可能性に言及した研究も少ない. 
  
 本研究では,1998年12月中旬に発生した波数1型の成層圏突然昇温現象の予測 
 可能性とその発生メカニズムを調べるため,気象庁1ヶ月予報モデルの予測結 
 果を用いて事例解析を行った.その結果,成層圏極域の昇温現象自体に関して 
 は一ヶ月程度以前から予測しうる可能性が示唆された.また,昇温現象の再現 
 に失敗した予測結果と成功した結果とを比較して詳しく解析することにより, 
 昇温現象の前に生じる対流圏内での波数1のプラネタリー波の増幅には,対流 
 圏内における,以下のような帯状平均風・プラネタリー波・総観規模波動間の 
 相互作用が重要であることが示唆された.すなわち,プラネタリー波の増幅の 
 予測に成功(失敗)した場合では,対流圏上層の亜熱帯ジェットコアの極側で, 
 総観規模擾乱に伴うEP-Fluxの鉛直成分の収束が強く(弱く),そこで平均帯状 
 風は強く(弱く)減速される.その結果,亜熱帯ジェットコアの極側に,プラネ 
 タリー波の鉛直伝播を促進する「導波管」が形成される(形成されにくい)こと 
 が,屈折率(Squared Refractive Index)の子午面分布を解析することにより示 
 された.また,総観規模擾乱によって,高緯度対流圏での帯状平均風の鉛直シ 
 アーが弱まり(強まり),大気下層での帯状平均風が強まる(弱まる)ことも,対 
 流圏内におけるプラネタリー波の増幅と関連していると考えられる. 
  
 一方,AO (北極振動) インデックス等を用いて,成層圏における長周期季節内 
 変動現象という枠組みで成層圏突然昇温を捉え直した,Baldwin and 
 Dunkerton (1999) の研究を参考に,1998年冬季の中高緯度大気循環の変動を, 
 大気全層(1000hPa, 500hPa, 50hPa)で定義した主要なEOF成分を用いて記述し 
 なおした.まず,1985年から2001年の北半球冬季のECMWF 解析データに 10 日 
 のlow-pass フィルターを施し,EOF解析を行った.その結果,第1主成分(寄与 
 率11.3%) としてAOに相当する変動パターンと,第2主成分(寄与率9.1%) とし 
 て,成層圏で波数1の水平構造を持つパターンが検出された.1998年冬季の各 
 スコアを解析すると,第1主成分は突然昇温が顕著となる時期以降卓越するが, 
 第2 主成分は,突然昇温の発生時期に卓越することが分かった. 
  
 さらに,突然昇温後の1998年12月末に,対流圏で顕著なブロッキング現象が発 
 生したが,この発生は,第1主成分に付随する変動が成層圏から対流圏に急速 
 に下方伝播する時期と一致していた.また,全ての一ヶ月予報結果では,この 
 時期のブロッキング現象の持続性や,この下方伝播を正しく予測していない. 
 このことは,ブロッキング現象の発生と持続性に,プラネタリー波の鉛直伝播 
 特性を通して成層圏循環が深く関わっていることを強く示唆しており,大変興 
 味深い. 
  

増田君は都合により延期になりました。

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連絡先

豊田 威信 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻 物理系
mail-to:toyota@lowtem.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-7431