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第 151 回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 11月 17日(木) 午前 09:30
場 所:低温科学研究所 新棟 3階 講堂

発表者:青木 邦弘 (大循環力学講座 D3)
題 目:中緯度傾圧ロスビー波の位相速度の増大:研究のレビューとOFESデータの解析

発表者:二橋 創平 (低温科学研究所 研究員)
題 目:夏季南極海で密接度と水温の関係から推定される海氷−海洋間熱交換係数

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中緯度傾圧ロスビー波の位相速度の増大:研究のレビューとOFESデータの解析 (青木 邦弘) 発表要旨 :

  
  近年の人工衛星高度計の観測によって、中緯度域において傾圧第1モードのロ 
 スビー長波の位相速度が古典理論値(線形かつ平坦な海底地形を仮定)よりも大 
 きくなることが示された。そのため、ロスビー波理論の改善が求められたが、 
 その後の理論研究により、平均流や海底地形の存在が位相速度の増大に影響を 
 持つことが示唆されている。 
  
 本研究ではこれらの効果が実際に観測で見られた位相速度の増大に寄与してい 
 るのか、高解像度のOFES(OGCM for the Earth Simulator)のデータを用いて調 
 べる。その第1段階として、OFESの海面変位データを用いた場合にも同様に位 
 相速度の増大が見られるか確認した。その結果、海面変位場から推定された位 
 相速度は古典理論値に対して中緯度域において最大2倍程度大きく、また、ば 
 らつきも大きくなることが分った。この傾向は平均流を考慮した場合のそれに 
 類似している。また、南太平洋において、中央海嶺上で位相速度の増大が見ら 
 れ、海底地形の影響が示唆される。したがって、位相速度の増大を説明するた 
 めには、平均流と海底地形の両方の効果が重要であると考えられる。ゆえに、 
 位相速度の増大に対して平均流および海底地形の効果のそれぞれがどの程度寄 
 与しているのか今後示す必要がある。 
  
 今回の発表では、位相速度の増大を説明するものとして挙げられた諸理論のレ 
 ビューを行う。次いで、OFESデータの解析結果を示し、それらを基に今後の方 
 針を示す。 
  

夏季南極海で密接度と水温の関係から推定される海氷−海洋間熱交換係数 (二橋 創平) 発表要旨 :

  
  典型的な季節海氷域である南極海の海氷融解は、開水面から海洋混合層に入 
  る熱 (主に日射) によってほとんどなされる (Nihashi and Ohshima, 2001)。 
  従って、その融解過程をモデルで再現するためには、海氷−海洋間の熱交換 
  係数が重要な parameter になる。熱交換係数は、北極海等では海氷下の直接 
  観測から渦相関法を用いて見積もられた例 (McPhee, 1992 等) があるが、観 
  測が困難な南極海ではほとんど調べられていない。モデルでも、熱交換係数 
  は tuning parameter とされたり、混合層に入る熱は全て融解に使われると 
  仮定して扱われる場合が多い。本研究では、この直接得ることが難しい熱交 
  換係数を、比較的入手しやすいデータから見積もることを試みた。 
  
  簡略化した南極海海氷融解期の海氷−海洋結合モデルから、海氷密接度(C)と 
  混合層水温(T)の関係は、初期値には関係なくある曲線に収束することが示さ 
  れている (CT-relationship; Ohshima and Nihashi, 2005)。この収束線は、 
  1990年12月に昭和基地沖で観測された密接度と水温の関係(CT-plot; Ohshima 
  et al., 1998)をよく説明する。本研究では熱交換係数を、観測による 
  CT-plotに、モデルから得られる収束線を fit させることにより得る。混合 
  層水温データは、砕氷船により12月と1月に、南極海で得られたものを用いた。 
  密接度はDMSP SSM/Iによるものを用いた。大気データはERA-40を用いた。 
  
  19個の観測された CT-plot から見積もられた bulk heat transfer 
  coefficient (Kb) は、0.4−2.8(×10**-4 m/s) であった。海氷底面のみ考 
  えた場合、Kbは物理的には heat transfer coefficient (ch) と friction 
  velocity (u*) の積で parameterize される。簡単な u* の見積もり  
  (water-ice drag coefficient は 0.015, ice drift speed は Ug の1%と仮 
  定) から、heat transfer coefficient (ch) は平均で0.0120となった。これ 
  は海氷底面の直接観測から見積もられた値 (McPhee et al., 1999) の約2倍 
  である。本研究の方法による ch が、底面融解だけでなく、側面融解や  
  brash ice 化して融解することを含んでいると考えると、これは想定範囲内 
  の値である。 
  
  u*は風速に比例すると考えられるので、地衡風風速 (Ug) と Kb(=ch×u*) の 
  関係を調べた。その結果、Kbは観測前7−12日間平均した Ugと正の相関関係 
  になるが、線形というよりは、むしろ Kb∝Ug**3 に近い関係を示した。本研 
  究の方法は、Kbを海氷−海洋結合系におけるバルクのものとして見ており、 
  開水面から入る熱が、まず混合層内でよく混合され、ice-ocean interface  
  まで運ばれる過程を含んでいる。海洋上層の混合は風速 (friction velocity  
  又は ice velocity) の3乗で効くので、得られた関係 (Kb∝Ug**3) は、開水 
  面から入る熱が混合層内で混合される過程を示している可能性がある。 
  

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連絡先

水田 元太 @北海道大学地球環境科学研究院
地球圏科学部門 大気海洋物理学分野
mail-to:mizuta@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357