****************************************************************************************************************

第278回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 12月 17日(木) 午前 09:30
場 所: 低温科学研究所 3階 講堂

発表者: 三村 慧 (大気海洋物理学・気候力学コース/D1)
Satoru Mimura (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D1)
題名:熱帯対流圏界層(TTL)における高氷晶数密度巻雲の生成条件の考察
Formation of high ice concentration cirrus in the Tropical Tropopause Layer

発表者:伊藤 優人(大気海洋物理学・気候力学コース/D2)
Masato Ito (Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D2)
題名:沿岸ポリニヤにおける過冷却を伴う海氷の生成過程と堆積物粒子の上方輸送の観測
The observation of frazil ice formation associated with supercooling and sediment upward-transport in coastal polynyas
-The impact of polynyas for material cycle-

****************************************************************************************************************

熱帯対流圏界層(TTL)における高氷晶数密度巻雲の生成条件の考察 (三村慧 Satoru Mimura)発表要旨:

全球地表面の10年規模の気温変動に影響する成層圏水蒸気量 (Solomon et al., 2010)の決定には、熱帯対流圏界層(Tropical Tropopause Layer; TTL)内の 低温領域で脱水を経験し、熱帯下部成層圏に流入する大気塊が大きく寄与し ている。この脱水は、氷晶生成をきっかけに進行し、生成した氷晶はTTL内の巻 雲として観測される。氷晶の生成過程には、均質核生成と不均質核生成の二種類 が存在するが、実際にTTL内で進行する過程については、まだ十分な理解がなさ れていない。Jensen et al. (2013) は、2011年に東部太平洋TTL領域で実施さ れた、Airborne Tropical Tropopause Experiment (ATTREX) から、厚さ10^1 m と非常に薄く、かつ10^4 L^-1 と高い氷晶数密度を持った、巻雲の観測事例を報 告した。この事例は、氷晶の存在する薄い層内でのみ、過飽和が解消されている などの特徴から、氷晶生成後の気象条件による変質が小さいと考えられる。そこ で本研究は、まず氷水量の高度分布に着目した臨界飽和度の推定(2015 気象学会 春季大会, B154)により、氷晶生成過程の判別を試みた。その結果、観測された 氷晶層は氷晶生成から観測されるまでの間、昇温傾向にあったことが示唆され たが、氷晶生成に関する知見は得られなかった。そこで次に、10^4 L^-1の高い 氷晶数密度に着目し、モデル計算により、均質核生成を仮定して高氷晶数密度 巻雲の生成条件の考察(2015 気象学会秋季大会, C156)を行った。空気塊が氷晶 生成以前に持つ初期の水蒸気混合比、エアロゾル粒径、空気塊の冷却率を変数に 取り、パラメータースィープにより計算を行った結果、巻雲の氷晶数密度が 10^4 L^-1となるためには、少なくとも2.3 K h^-1の空気塊の冷却率が必要で あることが示唆された。これは、10 m s^-1の水平風速を仮定すると、365K 温位 面の傾きが、6 cm km^-1 である条件に相当する。今回のEOASセミナーでは、 イントロダクションとして、成層圏水蒸気とTTL内の巻雲の関係や氷晶生成過程、 TTL巻雲の観測事例について述べたのち、高氷晶数密度巻雲の生成条件の考察に フォーカスしながら、ここまでの研究結果を報告する。また、今後の研究の 方針についても紹介する。

沿岸ポリニヤにおける過冷却を伴う海氷の生成過程と堆積物粒子の上方輸送の観測 (伊藤優人 Masato Ito)発表要旨:

海氷は極域海洋の熱収支・塩収支・物質循環・生態系に大きく影響を与えうる。 たとえば、海氷の生成時に海氷より排出される高塩分水(ブライン)により高密 度水が形成される。海氷は大気による海洋の冷却を妨げる断熱材として働くため、 極域海洋においては、沖向き風や海流によって海氷域内に形成される薄氷・疎氷 域である沿岸ポリニヤにおいて、大量の海氷が生産される。ポリニヤにおける 海氷生産が最も大きくなるのは、開放水面が維持されるときであり、これは 過冷却海水中でフラジルアイスが生成される場合に実現されると考えられている。 さらに、フラジルアイスが海中に漂う堆積物粒子と接触することで、海氷に堆積 物が取り込まれ、物質循環の起点となるとも考えられている。しかしながら、極 域海洋における現場観測が困難なことや、海中のフラジルアイスや堆積物粒子と いった微小な物体を検知する技術が確立されていないことから、上記の過程は現 場観測の観点からはほとんど明らかになっていない。本研究では、アラスカ・バ ロー沖合いやオホーツク海・サハリン沿岸で実施された係留観測について、主に 高精度の水温塩分計のデータやADCPにより取得された音波の散乱強度のデータを 上記過程に着目して解析した。その結果、ポリニヤや海氷縁域では、擾乱環境下 において海面から海中 15-30 m までフラジルアイスとみられるシグナルが検知 された。また、強流・擾乱イベント時には、海底から海面付近にまで輸送される 堆積物粒子と見られるシグナルも検知された。これらは、極域海洋における海氷 生成や物質循環の過程を捉えた、数少ない観測結果のひとつである。

-----
連絡先

豊田 威信 (Takenobu Toyota)
mail-to: toyota@lowtem.hokudai.ac.jp