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第293回 大気海洋物理学・気候力学セミナー のおしらせ

日 時: 4月 13日(木) 9:30 - 12:00
Date : Thu., 13 Apr. 9:30−12:00 
場 所: 環境科学院 D201室
Place : Env. Sci. Bldg. D201

発表者:伊藤 優人(低温科学研究所/学振PD)
Speaker: Masato Ito(Institute of Low Temperature Science/JSPS PD)
題目:オホーツク海サハリンポリニヤにおける海氷生成過程
Title:The process of sea ice formation in the Sakhalin polynya in the Sea of Okhotsk
発表者:大橋 良彦(大気海洋物理学・気候力学コース/D3)
Speaker:Yoshihiko Ohashi(Course in Atmosphere-Ocean and Climate Dynamics/D3)
題目:グリーンランド北西部Bowdoinフィヨルドにおける氷河流出水の挙動
Title:The behavior of subglacial meltwater plume in Bowdoin Fjord, northwestern Greenland

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オホーツク海サハリンポリニヤにおける海氷生成過程 (伊藤優人、Masato Ito)発表要旨: 

オホーツク海は冬季に海氷に覆われる季節海氷域であり、北半球における 海氷域の南限である。ヨーロッパ諸国と同程度の、海氷域としては極めて 低緯度に位置するこの海が凍ることには、冬季に大陸から吹きつける南東 向きの冷たい季節風が強く寄与する。この風は海を冷やすだけでなく、海 氷を沖向きに輸送するため、北西陸棚域やサハリン沿岸域にポリニヤ(海 氷域内の薄氷・疎氷海域)を形成する。海を覆う海氷盤は海から大気への 熱損失を弱める働きがあり、この断熱効果は海氷が厚いほど強い。このよ うな厚い氷がないポリニヤでは多量の海氷が生産される。ポリニヤでの海 氷生産が最大となるのは、海面に海氷板が張らずに開放水面が維持される 場合である。この効率の良い海氷生産は、擾乱環境下において、わずかに 過冷却となった海水が海中へと沈み込み、そこでフラジルアイスと呼ばれ る小さな氷の結晶が生成される場合に実現することが、室内実験より報告 されている。しかしながら、この過程を実際に観測するためには、アクセ スさえ難しい海氷域において、測定精度と同程度の大きさの過冷却を測定 し、かつ観測手法が確立されていない海中のフラジルアイスを検知する必 要があり、場観測による報告が著しく制限されている。一方で、近年の水 温・塩分計の高精度化に伴い海での過冷却が計測可能となってきた。さら に、音響測器により海中の微小物体を検知できる可能性が見いだされている。  ポリニヤ域内に位置するオホーツク海サハリン東岸沖の水深約30mの海域 では、それらの測器を用いた係留観測が、2002−2003年にかけて行われ、 冬季のデータの取得に成功した。この係留データや気象データの解析から、 強風環境下で生じたポリニヤイベント時に、過冷却が観測され、同時にフラ ジルアイスが少なくとも水深25m以浅の全層において検知された。この結果 は、サハリンポリニヤにおいて、過冷却海水中でフラジルアイスが生成され、 開放水面が維持され続ける、効率の良い海氷生産が生じたことを示唆する。 またサハリンポリニヤにおいては、この海氷生産過程が潮流や太陽放射など の影響を強く反映することも明らかとなった。

グリーンランド北西部Bowdoinフィヨルドにおける氷河流出水の挙動 (大橋 良彦、Yoshihiko Ohashi)発表要旨:

近年、グリーンランド氷床の質量損失に伴って海洋への融解水の流出量が 増加している(e.g. Hanna et al., 2008)。従って、流出した融解水が海 洋の水塊特性に与える影響を評価することは氷床沿岸海域の変動を予測す る上で重要である。しかしながら、グリーンランド沿岸において海洋観測 が継続して実施されている海域は限られており、流出した融解水の挙動が どのような要因で変動するかは明らかとなっていない。末端が海洋に接す る氷河では、融解水は海面より深くに位置する出水口から流出し、フィヨ ルド下層の水塊が融解水と混合することで浮力を得てプルームを形成する (e.g. Chu, 2014)。また、融解水の流出によって形成されるプルームは、 懸濁物質を陸や海洋下層から表層に輸送するため、生物生産にとっても重 要な役割を果たしている可能性がある(e.g. Lydersen et al.,2014)。 前述したような過程で流出した融解水(氷河流出水)の挙動に着目し、 氷河流出水の挙動がフィヨルドの水塊特性に与える影響やその変動要因を 明らかにすることを本研究の目的とした。2014年および2016年の夏季に グリーンランド北西部Bowdoinフィヨルドにおいて海洋観測を実施し、 測定された水温・塩分・濁度を解析に使用した。  解析の結果、2014年と2016年ともに亜表層(水深15-40 m)において 氷河流出水成分の割合および濁度が最も高いことが明らかとなった。 一方で2014年および2016年の水塊構造には異なる点も見られ、2014年では 亜表層より下層(水深50-80 m)、2016年では表層付近(水深5-15 m)にお いてもう一方の年と比べて、氷河流出水の影響および濁度の値がより大き かった。この水塊構造の違いは2016年の方が2014年と比べて、より多い流出 水量によって得られる浮力が大きいことから、高濁度の氷河流出水が水深の 浅いところで拡がっていることを示唆している。この示唆は2016年の方が氷 河流出水量の指標となる積算暖度が20%高いという結果とも一致している。 また、2014年と2016年の積算暖度の違いをもとに氷河流出水量を変化させて、 氷河流出水の挙動に関する数値実験も行った。流出水量が多い場合の方が表 層付近で流出水トレーサー濃度が高いという結果が得られた。この実験結果 は現場観測結果と整合的であり、Bowdoinフィヨルドの表層付近の水塊構造 の違いには氷河流出水量による影響が効いている可能性が示された。

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連絡先

平野 大輔(Daisuke Hirano)
mail-to: hirano@lowtem.hokudai.ac.jp