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第 38 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:1999年 9月 8日(水) 午後 4:30 〜 6:30
場 所:地球環境科学研究科 A棟 803A

発表者:稲津 將 (気候モデリング講座 M2)
題 目:山岳のない AGCM における対流圏の亜熱帯ジェットと中高緯度の定在波動

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山岳のない AGCM における対流圏の亜熱帯ジェットと中高緯度の定在波動 (稲津 將) 発表要旨 :

 1. 定在波動の形成に関する先行研究のレビュー 
  
 対流圏の中緯度大気における季節平均場の東西非一様性は, 山岳や加熱分布によって 
 励起された定在ロスビー波によって生み出されていると理解されてきた. Charney and  
 Eliassen (1949) や Smagorinsky (1953) は, 基本流を仮定した準地衡方程式系を線 
 型化して, 与えられた山岳および加熱分布の強制に対する流線函数の応答を求めた.  
 ところが, これまでの研究では, 上記の励起源のうち, 加熱を起因とするものについ 
 て, 明瞭な理解が得られたとは言い難い. Manabe and Terpstra (1974)は, 山岳を除 
 いたものと現実の山岳をいれた 2つの AGCM を長時間積分して, 数値的に山岳と加熱 
 の効果を見積もった. 一見, 山岳の効果が非常に優勢で, 加熱の効果はそれほどでも 
 ないように見えるが, Held (1983) によると, 熱的強制のメカニズムは山岳強制の波 
 動との干渉というより, 惑星波動との非線型相互作用の方が重要であり, 熱的強制と 
 山岳強制はほぼ半々くらいの効果であると結論する方が良いとした. Hoskins and  
 Karoly (1981) は, 線形傾圧モデルを用いて理想化して与えた加熱分布に対する流線 
 函数の応答を求めた. その流線の応答は熱帯と中緯度の強制の種類に応じて, 大まかに 
 3通りに分類される. また,水平断面で見ると同時期のテレコレクションパターンの研 
 究 (Wallace and Gutzler(1981); Horel and Wallace) に見られるロスビー波列に酷 
 似している. 1990年前後には, 熱的な強制にはそのフィードバックが微妙であるとさ 
 れているストームトラックの効果も含みますます問題は難解なものとなった. Valdes  
 and Hoskins (1989) は気候値の東西流で線型化した渦度方程式モデルを用いて,加熱 
 分布の観測値を強制力とした応答問題を考えた. ここでは,  非断熱加熱の影響は非常 
 に大きく,山岳強制による大気場の応答は,現実場の 30% 程度しか説明できないとい 
 う結論を得ている. さらに,移動性渦の効果については, 平均流に対するフィードバ 
 ックが, 基本場依存であることが示唆された.  
  
 2. AGCM 実験とその結果 (1) : 亜熱帯ジェット 
  
 現実海陸線実験では, 次の3通りのSST分布を与えた. まず, SST分布を気候値に与えた 
 場合, 対流圏上層の時間平均流は, ほぼ気候値のような亜熱帯ジェットの東西非一様 
 性を再現したが, SST分布を東西一様に与えると, 亜熱帯ジェットは東西一様になった. 
 特に, 熱帯のSSTのみ東西一様に与えても, 亜熱帯ジェットはほぼ東西一様であった.  
 このことから, 時間平均流の東西非一様性の形成には熱帯のSST分布の東西非一様性が 
 重要である事が推察される. そこで, 海陸分布を理想化した実験を行った. 現実のユ 
 ーラシア大陸を理想化した 20N 以北の半分の領域を占める矩形の大陸を起き, それ以 
 外の領域は海とした. SSTを東西一様な場合と熱帯域に東西波数1の偏差を持つ2例の  
 SST 分布(極大域が大陸の東岸と西岸)で与えた場合の3通り行った. 東西一様の場合は 
 亜熱帯ジェットは殆んど東西一様であった. また, SSTを東西非一様に与えると, 海陸 
 分布に関係なく,熱帯の SST の極大域の北に時間平均流の極大域が, 極小域の北に極 
 小域がある分布になった. よって, 海陸分布は時間平均流を決定する要素として副次 
 的なものであることがわかった. 次に, 熱帯の SST 分布に対する時間平均流の応答を 
 水惑星モデルを使って調べた. 熱帯で東西波数1で与えたSST偏差の振幅を0(K)から 
 2.5(K)まで0.5(K)刻みに6通り与えて実験した. すると, この範囲では熱帯のSSTの偏 
 差が大きくなる程, 亜熱帯ジェットの東西非一様性は増すことがわかった. 特に, SST 
 偏差の振幅が1(K)くらいで, 東西非一様性は明瞭になる. このような熱帯のSSTの東西 
 分布に対する亜熱帯ジェットの応答メカニズムは現在次の2通りが考えられる. 1つは 
 ハドレー循環の局在化である. 熱帯のSSTの極大域付近に強い風の収束が生じ, 積雲を 
 伴う強い上昇気流が生じる. その上昇流は亜熱帯で下降流となり, 子午面循環を形成 
 する. このような局所的ハドレー循環の強化が, 亜熱帯ジェットの加速をもたらして 
 いる可能性がある. もう1つは, 順圧ロスビー波の水平伝播である. 積雲対流に伴う熱 
 源を強制力として, ロスビー波が励起され, 北東にエネルギー伝播し, テレコネクシ 
 ョンパターンを形成する. この順圧的なパターンが亜熱帯ジェットの加速減速をもた 
 らすものである. これら2つのメカニズムの定量的な効果についても議論する予定であ 
 る. 
  
 3. AGCM 実験とその結果 (2) : 中高緯度の定在波動 
  
 北半球の冬季, 対流圏の中高緯度には鉛直に伝播する定在ロスビー波が存在する. (1) 
 と同じ山岳を除いた AGCM で, 偏西風ジェットには副次的な作用しか及ぼさない中高 
 緯度の海陸分布および海面水温分布と, 約 40N 以北の定在波動の関連について調べた. 
 定在波の水平構造に注目すると, 大陸東岸に谷, 西岸に峰を持つ波数 3 の構造が見て 
 とれる. 山岳を取り除いたモデルでは, この構造に変化がないのにもかかわらず, 中 
 緯度の海面水温を東西一様にすると,波数 1 が目立つようになる. 特に, 北米大陸の 
 西岸付近の高気圧と大西洋での低気圧が大きく異なる.一方, 理想的な波数 2 の海陸 
 分布を与えた AGCM 実験では,中高緯度の定在波が不明瞭であることがわかった.よっ 
 て、中高緯度における海面水温分布と大陸と海洋の配置および面積比が, 中高緯度の 
 定在波動の主な要因になっていると考えられる.この点について,様々な理想化した実 
 験などを比較検討して紹介する. 
  
 次回の発表者   Dr. Wang  (9/20) 

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連絡先

伊藤 頼 / 谷口 博 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環 / 気候モデリング講座
mail-to:yori@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2357