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第 72 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2000年 6月 26日(月) 午後 16:30 〜 18:30
場 所:地球環境科学研究科 管理棟 2F 講堂

発表者:稲津 將 (気候モデリング講座 D1)
題 目:熱帯の海面水温起源の亜熱帯ジェットに対する実験的アプローチ

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熱帯の海面水温起源の亜熱帯ジェットに対する実験的アプローチ (稲津 將) 発表要旨 :

  北半球の冬季に卓越する東アジアおよび北米東部の亜熱帯ジェットは 
 中緯度の大規模山岳と東西に非均一に分布する非断熱加熱の双方が原 
 因とされてきた(Charney and Eliassen 1949; Smagorinsky 1953;  
 Blackmon et al. 1978; Hoskins and Karoly 1981; Simmons 1982;  
 Held 1983; Jacqmin and Lindzen 1985; Nigam 1986; Valdes and  
 Hoskins 1989).Inatsu et al. (2000a) では,この要因のうち,熱 
 的要因を中緯度の海陸分布よりはむしろ熱帯の海面水温(SST)分布で 
 あるということを種々の理想的な境界条件を課した大気大循環モデル 
 (AGCM)で示した. 
  
 今回の発表では,Inatsu et al. (2000a) の結果を踏まえ,熱帯のSSTが 
 亜熱帯ジェットを形成するメカニズムに関する以下の問題を議論する. 
 (1) Inatsu et al. (2000a) で見ている時間平均場は果たして定在的で 
 あろうか?言い換えると,東西非一様な時間平均場はその波としての 
 位相が固定されているか? 
 (2) Inatsu et al. (2000a) では,熱帯のSSTの東西差を5Kとしているが, 
 どの程度のSST差があれば,亜熱帯ジェットは顕著な東西非一様性を示す 
 のか?また,SSTに対する亜熱帯ジェットの鋭敏性は如何なるものか? 
 (3) 熱帯のSSTの東西差が作り出す,熱帯大気の東西非均一性は,どのよ 
 うにして亜熱帯ジェットコアの形成に作用するか?実際にハドレー循環が 
 強化されているか? 
 (4) 熱帯のSST起源の亜熱帯ジェットコアは山岳強制により作られたそれと 
 どのような点で異なっているのか? 
 (5) 水惑星実験におけるストームトラックとその作用はどのようなものか? 
  
 これらの問題に実験的にアプローチするために,熱帯のSSTの東西差を0,1, 
 2,...,8K と変化させた9種類の水惑星実験の結果を主に紹介する.用いた 
 AGCMは CCSR/NIES AGCM で 解像度 T21,L20,季節は1月に固定している. 
  
 (1)および(2)では,物理量を波数展開した時に,強制とした与えた波数1の 
 波成分の応答を振幅と位相角のふらつきの2点からそれらを定量化して議論 
 した.すると,亜熱帯東西風の振幅は 4K の東西差を境にして,鋭敏度が 
 変化した.つまり,0-4KのSSTの東西差では,SST の東西差が即,亜熱帯 
 ジェットコアの明瞭化につながっていたが,5K以上ではあまり振幅が変化 
 しない.これは,(3)の問題に関係して,熱帯大気が熱帯のSSTの東西差に 
 たいして線形的に応答しているのと対照的である.また,亜熱帯ジェット 
 コアの中心経度は熱帯のSSTの東西差の増加とともに東にシフトしている. 
 これは,Hendon(1986)によって,指摘された大気の非線形性によるものと 
 考えられる.また,熱帯の暖水域はハドレー循環を局所的に強化し,上部 
 亜熱帯高気圧の形成に重要な役割を果たしている.これを渦度収支解析を 
 用いて明らかにした.時間が許せば,(4),(5)の問題に対しても議論を展開 
 したい. 
  
 修士1年の学生の人数次第では,研究の内容に触れる前に,より基本的な 
 大気大循環に関する説明をするかもしれません. 
  
 尚,今回の発表の内容は,修士論文の前半部分とその議論の拡張であり, 
 Inatsu et al. (2000b) として,まもなく学術誌に投稿する予定である. 
 また,夏の学校における一般講演に発表を申請している. 
  

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連絡先

稲津 將 / 西浜 洋介 @北海道大学大学院地球環境科学研究科
大気海洋圏環境科学専攻大循環力学 / 気候モデリング講座
mail-to:inaz@ees.hokudai.ac.jp / Tel: 011-706-2298