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第 205 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2009年 10月 27日(火) 午後 16:00 〜 18:30
場 所:文系共同講義棟2番教室

発表者:三木 洋介(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:観規模擾乱に伴う黒潮続流域上の大気境界層の変質に関する研究

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総観規模擾乱に伴う黒潮続流域上の大気境界層の変質に関する研究 (三木洋介)発表要旨:

近年、西部北太平洋の黒潮続流域では、海洋から大気に対する熱的影響が
示されつつある。Tokinaga et al.(2009)は冬季、黒潮続流SSTフロントの
暖水側(冷水側)で海面から放出される熱フラックスが大きく(小さく)、
その影響は大気境界層付近の下層雲の雲底高度がSSTフロントを跨ぐ遷移層
として現れていることを示した。またTokinaga et al.(2006)では、
総観規模での低気圧の後面が黒潮続流域を通過するとき、北風移流により
熱フラックスが大きくなり、大気境界層が高くなることを示した。さらに
Norris and Iacobellis(2005)は統計的手法を用いて北太平洋のSSTフロント
における雲が総観規模の移流の方向によって異なる影響を受けることを示した。
しかし低気圧の中心が東進していく過程で黒潮続流域の大気境界層が
どのように変わるのかについてはまだ観測的には示されていない。

こうした点を明らかにするため、2009年2月2日から11日にかけて黒潮続流域の
南側に設置されているKEOブイ付近で一般気象観測、GPSゾンデによる高層気象
観測、海洋観測の定点同期観測を行った。観測期間中、観測点では海面水温は
19℃弱で大きな変動はなかった。一方で観測点の北側を低気圧が3つ通過して
おり、それに伴って海面気圧や気圧、気温が変化していた。

低気圧の東進による境界層の変化を見るために、ゾンデ放球時間に一番近い
時刻のGPVの地上解析図を用いて、観測点と低気圧の中心位置(最低等圧線)との
距離と方角を求めた。まず観測点が最低等圧線に入るものを「中心付近」と
した。次に低気圧の中心が西にあるものを「前面」、東にあるものを「後面」
として距離500km間隔で分け、ゾンデ観測、一般気象観測、GPVをコンポジット
した。その結果、低気圧の後面1500km以内では低気圧の中心付近と比べて
大気境界層高度が高かった。また境界層内の空気は低気圧の後面で中心付近と
比べて仮温位が低く、比湿が低いことがわかった。さらに一般気象観測値では
低気圧の後面1500kmの時は中心付近の時に比べて、大気と海面の温度差や
大気の湿度差が大きく、海面から放出される熱フラックスが大きい傾向を
示した。

一方、GPVの鉛直プロファイルから、後面は仮温位の鉛直勾配が小さい層が
中心付近より厚いことがわかった。さらにGPVによる鉛直東西断面、南北断面図
に対しても同様のコンポジットを行ったところ、低気圧後面(低気圧の
中心付近)の広い範囲で、仮温位の鉛直勾配が小さい層は厚い(薄い)ことが
わかった。

今後は海洋の混合層についても同様の解析を行い、大気に放出される熱によって
どのような変化が起こっているのか見ていきたい。また同じ期間に行われた
続流北側での船舶による気象観測を用いて、続流北側と南側で低気圧の東進に
伴う境界層の変化の違いを探っていきたい。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
干場康博
E-mail:h-dragon@ees.hokudai.ac.jp