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第 218 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2012/10/24(水) 15:00 -- 17:00
場 所:環境科学院 D201講堂

発表者:村中 里衣(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:黒潮海域における非地衡風成分と大気境界層の関係

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黒潮海域における非地衡風成分と大気境界層の関係 (村中 里衣) 発表要旨 :

 黒潮やガルフストリームに伴う水温フロント(海面水温の水平勾配が大きい領
域)では,水温フロントに沿って海上風の収束や回転が形成されることが数値モ
デルや衛星データの解析によって示されている.海上風の収束は大気下層の上昇
流を通して雲を形成し,風応力カールはエクマンパンピングを通して海洋表層に
影響する.
 このような水温フロント域での海上風の収束や回転は,水温フロント上の背景
風の向きに強く依存することが知られている.また収束や回転は風速の空間微分
量なので,データセットの格子間隔や平滑化に強く依存する.そこで本研究では,
背景風の向きが季節変化する中で,収束や回転をもたらす「非地衡風成分」の特
徴を調べることを目的とした.データはJRA-25再解析データを使用し,解析には
1979年~2007年の月平均気候値を使用した.またここでの「非地衡風成分」は,
海上風から海面気圧に基づいた地衡風成分を引いた残差(気圧面では,風ベクト
ルからジオポテンシャル高度に基づいた地衡風成分を引いた残差)として定義し
た.
 偏西風が卓越する北太平洋上では,海面摩擦によって実際の海上風は地衡風か
ら減速するため,非地衡風成分は概ね東風成分を持つ.一方,冬の西岸境界流上
では,海上風の非地衡風成分は西風が見られる.この結果は,非地衡風の力学バ
ランスに,海面摩擦とコリオリ力に加え,別の過程が加わってバランスしている
ことを示唆する.
 海上風に対する非地衡風成分の角度の季節変化は海面熱フラックス(海→大気)
の季節変化とよく一致し,海面熱フラックスが大きいほど非地衡風成分の角度が
小さい.つまり,海面熱フラックスが大きいほど,海上風の西風成分が大きくな
るという傾向が見られた.また,偏西風帯の北緯30度から40度の西部北太平洋上
では,非地衡風の西風成分が大きいほど,風速・仮温位ともに大気下層でプロフ
ァイルが鉛直一様に近づく傾向が見られ,この結果は,海面での非地衡風西風成
分と大気下層の鉛直混合が強く関係していることを示唆している.
 このように海面熱フラックス(海→大気)の影響を受けたと考えられる海上風
の非地衡風成分が,再び海洋にどのような影響を与えているかを見るために,黒
潮~黒潮続流域において,地衡風成分・非地衡風成分それぞれに対する風応力カ
ールを計算した.まだ心の目が必要な感じであるが,トータルの風応力カールで
は見られなかった,非地衡風成分による局所的なエクマンパンピングが見られそ
うである.

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
池川慎一
E-mail:Ishinichi@ees.hokudai.ac.jp