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第 238 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ

日 時:2015/10/14(水) 16:00 -- 17:00
場 所:環境科学院 D201

発表者:田村 健太(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:冬季北海道西岸沖に発生するポーラーロウにおける下部境界条件の役割

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冬季北海道西岸沖に発生するポーラーロウにおける下部境界条件の役割(田村 健太) 発表要旨 :

 冬季の北海道西岸沖では時折、水平スケール1000km未満で1hPa毎の等圧線で明
瞭に識別できる低気圧が発生することがあり、その内部では100km程の長さを持
つ帯状の降雪エコーなどの中規模擾乱が存在する。このような低気圧は北海道西
岸小低気圧と呼ばれており、石狩平野を中心とした平野部に局地的な大雪や突風
をもたらすことが古くから知られている。この小低気圧は、高緯度の海上で冬季
に発生・発達する、ポーラーロウ(以下PL)と呼ばれるメソスケール低気圧の一種
であると考えられる。北海道西岸沖で小低気圧が発生する際には北海道の東に総
観規模の温帯低気圧が位置していることが多いとされている。 Tsuboki and
Wakahama (1992) は複数の小低気圧事例について両者の関係を調査したところ、
温帯低気圧の西側にみられる強い寒気移流が北海道西岸沖の対流圏下層での水平
温度傾度を強めていたことから、小低気圧の発生には下層大気の傾圧性が重要で
あることを指摘した。また、Yanase et al. (2004) は北海道南西沖に発生した
小低気圧について数値実験を行い、(1)海面からの熱フラックスが大気安定度
の弱い成層を維持することで渦の発達に寄与すること、(2)凝結加熱が対流を
さらに強化し、渦の急発達に大きく影響していることを示した。上記以外にも地
形効果の重要性を提唱する研究もある。また、PLに関する研究は世界各地で行わ
れており、ラブラドル海ではグリーンランドの山地による総観規模低気圧の分離
について、日本海西部ではJPCZ内の下層風シアについて、それぞれ重要性が指摘
されている。以上のように、PLは地域毎および事例毎に様々な構造を呈している
ことから、異なるメカニズムが寄与の度合いを変えて複合的に作用し、発生や発
達に寄与していると考えられている。このため、北海道周辺におけるPLの特徴を
明らかにするためには、多くのPL事例に関して発生時の環境場を調査し、主要な
発生要因となるメカニズムを特定することが、重要であると考える。本研究で
は、領域気象モデルによる過去30年間の冬季気候の再現実験に加えて、海氷分布
や地形などの下部境界条件を操作した感度実験により、PLの発生・発達過程を比
較し、北海道周辺におけるPLについて、下部境界条件の役割を明らかにする事を
目的とする。まず、再現実験結果を用いてPLを検出するための手法を作成し、PL
の空間分布と季節変化を、人工衛星や雲解析情報図を用いて検出した先行研究と
比較した。再現実験の結果では、PLを含むすべての低気圧の存在頻度が北海道西
岸沖に集中する傾向が見られ、過去の事例研究と整合的であることを確認した。
さらに海氷の寄与を明らかにするために、1982年~2011年の過去30年間における
海氷分布を合成した仮想的な最大海氷面積データを作成し、これを境界条件とす
る感度実験を行った。その結果、再現実験で見られた北海道西岸沖における低気
圧存在頻度の高い領域が、海氷上では見られなくなった。このことから海氷は、
直上でのPL発生・発達を抑制する効果があると考えられる。

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連絡先

北海道大学大学院 環境科学院
地球圏科学専攻 大気海洋物理学・気候力学コース
三村 慧 Mimura Satoru
E-mail:s-mimura@ees.hokudai.ac.jp