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第 241 回 大気海洋物理系 B 棟コロキウム のおしらせ
日 時:2016/10/4(水) 15:00 -- 16:00
場 所:環境科学院 D101
発表者:木村 光佑(大気海洋物理学・気候力学コース M2)
題 目:GPS可降水量を用いた日本における気温と水蒸気変動の解析
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GPS可降水量を用いた日本における気温と水蒸気変動の解析(木村 光佑) 発表要旨 :
世界平均地上気温は1880年から2012年の期間で約0.85度上昇しており、今後も 温室効果ガス濃度の上昇により気温上昇が予測されている。IPCCによると、気温 上昇に伴い多くの地域で降水強度や強い降水の頻度が増加することが予測されて いる。日本では、1898年以降100年あたり約1.1度地上気温が上昇している。ま た、幾つかの先行研究において、近年極端に強い降水事例が増加していることが 指摘されている。日本では低気圧や前線が通過する際などに強い降水が発生す る。IPCCによる将来モデルの予測の結果では、将来(2081年〜2100年)、日本を含 む中低緯度地域だけでなく、低緯度地域、高緯度地域に関しても降水強度の増加 と強い降水の頻度が現在よりも上昇することが予測されている。これに関して IPCC(2007, 2013)や藤部(2013)では、気温上昇に伴い大気中の水蒸気量が増加す ることが強い降水に影響を及ぼすと指摘しているが、実際に強い降水が発生した 際の水蒸気量の観測値を用いて議論されていない。また、クラウジウス・クラペ イロンの式から気温と飽和水蒸気圧の間には理論的な関係があるが、地上から上 空までの水蒸気量の鉛直積算値である可降水量は地上気温に対して同様の関係を 持つとは限らない。そこで本研究では、極端降水に関して、気温と可降水量の関 係を明らかにすることを目的とする。日本では水蒸気量の観測が1日に2回(日本 時間9時、21時)、16地点でラジオゾンデによって行われている。降水の発生メカ ニズムは緯度や山岳、海岸などの局地的な地理因子によって異なることから解析 対象とする領域では空間分解能の高いデータが必要である。また短時間に生じる 強い降水を理解するには細かい時間分解能の水蒸気変動を把握する必要がある。 本研究では10分間隔の時間分解能を持つGPS可降水量の観測値を用いて日本全域 の265地点を対象に解析を行う。解析期間は1998年から2010年の13年間である。 まず、GPSの観測地点を気象庁の区分にならって、日本全国の6地域(北日本日本 海側、北日本太平洋側、東日本日本海側、東日本太平洋側、西日本日本海側、西 日本太平洋側)に分け、各地域について気温と可降水量の関係を検証する。また 季節間で可降水量の変動特性の比較も行う。それぞれの地域について、10分間隔 の観測データを気温が-0.99から30.99まで1 間隔に分類し、その時の可降水量の 頻度分布を作成した。そして、各気温階級に含まれる可降水量データの上位1 %、上位5 %、上位10 %の値を求めた。これら上位の可降水量と気温の関係を作図 することで、気温上昇に伴う可降水量の極値の変化を調べた。各地域で気温が上 昇するにつれて可降水量は増加する。その増加率はクラジウス・クラペイロンの 式から見積もられる7 %/ 増加率と概ね一致していた。気温が20 付近になると可 降水量の増加が弱まり、20 以上では気温が増加しても可降水量の値はほぼ一定 となった。また北日本、東日本、西日本を比較した際、可降水量の増加が南に行 くほど高い気温まで続くことから、緯度が低いほど可降水量の増加が弱まる気温 も高くなることが分かった。春夏秋冬に分けて気温と可降水量の極値との関係を 調べると、夏と秋では6地域ともに20 付近で可降水量の増加が弱まり、20 以上 の可降水量の値はほぼ一定であった。一方、春は北日本側と東日本側では気温が 高くなると、可降水量の極値は低下した。春の気温が高い日は夏の同じ気温の日 に比べて、大気が乾燥しており、可降水量は極値が低くなりやすいと言える。
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