IPCC第一作業部会執筆者会議を行く
—研究者をめざす若者のための国際会議歩き方ガイド—

潮位観測の長い歴史をもつフランスの港街、ブレスト。2011年7月、ここでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第五次評価報告書(AR5)へ向けた、第一作業部会の第二回主執筆者会議が開かれた。私はこの会議に第三章 観測−海洋—の主執筆者のひとりとして参加した。

   
冒頭のプレナリーセッションの様子。背景となっているフレンチテイストあふれる地球のイラストがなんともおしゃれである。     インフォメーション・キットを束ねたフォルダの表紙です(左の写真中のイラストを含む)

IPCCは、気候変動に関してその時点で確かだと考えられている情報の評価と公表を目的としている。その報告は、各国政府や国際機関が政策決定を行うための基礎として利用されることが想定されている。IPCCには、AR5に向けた現体制として、総会(ビューロー)のもとに、第一作業部会(科学的評価)、第二作業部会(影響・適応・脆弱性)、第三作業部会(緩和策)、およびインベントリータスクフォースが設置されている。このうちの第一部会には、14章からなる報告書を作成するため、258人の執筆者があつまっている。コントリビューティングオーサーとして実際に執筆に貢献している研究者の数は、この何倍にもなる。今回の会議は、この第一作業部会がAR5をまとめていくためのステップのひとつで、これまでに書き上げた0次ドラフトをもとに各章内や章の枠を超えて打ち合わせを行い、1次ドラフトを書くための準備を進めるのが目的だ。

それはさておき、IPCCの会議に限ったことではないが、私はこうした国際会議にでるたびに英語力と体力の必要性を痛感する。当然のことながら会議は英語で行われるし、十分な準備をしておかないと、すぐにおいて行かれてしまう。日頃が大切だなと毎回思うことになる。知力だけではない。この手の会議では、半ば公的な歓迎会や夕食会といった催しがなされる。今回も、最終日の前日に、一般客の帰ったあとの水族館を貸し切ってカクテルパーティーが行われた。こういう場で、非公式なものを含めてさまざまなレベルで情報交換をするわけだ。ワインをたっぷり飲んでパーティーも終わりに近づいたころ、雪氷学者の一団と夕食をすることになったのだが、彼らはレストランのある市街までバスで2〜3キロのせられてきた道を歩いて帰るといいだす。(そして実際に歩いた。)また、最終日の会議がおわったあと、同じ章の執筆者二名と「ウォーキング」することになったのだが、午後6時からレンタカーを借りてドライブし、岬の突端のトレイルをひたすら歩く。(歩き終えたときには午後9時を回っていた。)たしかに、こうやって歩くと気持ちがいいし、人間には足があることを思い起ださせてくれる。しかし、こうしたつきあいをするには、体力と運動靴が欠かせない。

ルコンケの岬から大西洋の水平線をみつめる筆者。ちなみに、靴は黒革靴である。

AR5では、これから1次ドラフトをまとめ、今年の12月に公表する。ドラフトには、専門的な知識のある研究者であれば、だれもがコメントすることができる。1次ドラフトには、一行ごとに山のようなコメントが寄せられることだろう。そのコメントすべてを尊重し対応していくことで、さまざまな角度からのチェックを行う。そして同様にして2次ドラフト、最終ドラフトと段階を踏んでいく。まだまだ道のりは遠い。

IPCCの評価報告書にいう「評価」は、きちんとしたレビューを経た論文にもとづいて行う。今回のAR5では、2012年7月までに投稿され、2013年3月15日までに受理された論文がその評価の対象となる。つまり書く側としては、あと約1年間のうちに論文を投稿して、それから半年強のうちに通せばよいわけだ。さあ、若い研究者のみなさん、ふるって論文を書きましょう!

2011年8月


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