成層圏とオゾン

オゾン層とは?

地球大気におけるオゾンの存在は他の惑星にはない特徴です。長年にわたる生物活動が大気に酸素を蓄積し、これに太陽紫外線が照射することによってオゾン層が形成・維持されています(図1)。オゾン層の存在によって、地表には豊かな生物圏が広がるとともに、高度10〜80kmには気温極大層が形成されています。これが成層圏(〜50km)と中間圏で、両者をあわせて中層大気(Middle Atmosphere)と呼びます。

札幌におけるオゾン・水蒸気ゾンデ観測の様子(左)とオゾン・気温の高度分布の例(右、2004年3月29日):

対流圏界面(この例では高度約10km)からオゾン濃度が急激に増大し、20km付近で極大となっています。これがオゾン層です。一方、気温は成層圏界面(高度約50km)で極大となります。

オゾン層を支配する光化学過程と力学・輸送過程

オゾン層の変動は、様々な大気微量成分が絡む光化学過程と、乱流拡散から大規模擾乱、平均子午面循環まで幅広い時空間スケールを持つ力学・輸送過程によって決まっています。地球環境問題の代表格であるオゾン層破壊問題、そして、南極オゾンホールには、産業活動によるフロン等の放出が深く関わっています。オゾン層の光化学過程を人類が乱したのです。一方、中層大気の力学場には、対流圏から伝播してくる様々な大気波動による運動量輸送が重要な役割を果たしています。波と平均東西風との相互作用により、赤道東西風の準二年振動(QBO)や高緯度地域における成層圏突然昇温(図2)など、非常に興味深い地球流体現象が引き起こされています。

成層圏突然昇温の事例:

北極点を中心とした10hPa(成層圏中部、おおよそ高度30km)における高度場の時間変化。低圧部(寒色)と高圧部(暖色)が数日かけて分裂していく様子が見られます。このような大規模な波活動に伴い、冬季には時おり成層圏中部の気温が数日で40℃も上昇します。

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研究テーマ ─ 対流圏成層圏結合

成層圏と対流圏は様々な形で物質や運動量のやりとりを行っています。両圏の結合・相互作用は現在大気科学の最もホットな研究テーマのひとつです。「対流圏の大気微量成分はどのような経路を通りどのような過程を経て成層圏へ侵入し、オゾン層に影響を与えているのか」(図3)、「成層圏と対流圏の力学結合はどのような形で生じているのか、特に、成層圏は対流圏に力学的影響を与えうるのか、与えているのであればそこにはどのような力学過程が関わっているのか」我々は、このような問題意識のもと、熱帯地域における大規模な観測キャンペーンや、大気大循環モデルを用いた数値実験や、各種気象データの統計的解析などを行っています。

熱帯対流圏界面領域における物質輸送過程の模式図(左)と熱帯(キリバス共和国クリスマス島)におけるオゾンゾンデ観測の様子(右):

熱帯地域特有の組織化した積雲群が、対流圏界面領域に大規模な大気波動を励起し、特徴的な輸送経路を形成していることが分かってきています。特殊な観測装置も用いながら、熱帯対流圏界面領域における力学過程・微物理過程・光化学過程を観測的に明らかにする努力も行っています(写真をクリックすると、観測プロジェクト“SOWER”のホームページが出ます)。